サロベツ湿原

概要

北海道北部の日本海側、稚内市・豊富町・幌延町にまたがり、東西約5~8㎞、南北約27㎞、面積20,000~24,000haとも言われる広大なサロベツ原野。その中心にあるのは面積6,700haを誇るサロベツ湿原です(東京ドーム約1,400個分、日本国内の湿原で3番目の規模です)。

この湿原の最大の特徴は、ミズゴケを中心とした「高層湿原」と呼ばれる極めて発達した湿原が平地で見られることです。通常、高層湿原は尾瀬のような山岳地帯などに見られるタイプの湿原ですが、サロベツの場合、寒冷で水分が豊富な環境であることから高層湿原が発達し、日本最大の高層湿原(少なく見積もっても562ha)としても知られています。

また、季節の花々で彩られる大湿原と、洋上にそびえ立つ利尻山を望む雄大な景色は素晴らしく、利尻礼文サロベツ国立公園に指定されています。

毎年、春と秋にはオオヒシクイやコハクチョウなどの渡り鳥たちが休息のためにこの地に立ち寄り、今では貴重になってしまった草原の鳥、シマアオジなどの絶滅危惧種も繁殖しています。

また2004年からはタンチョウの繁殖も確認されるなど、野鳥たちの楽園としても注目されています。このことからサロベツ原野は2005年に、渡り鳥をはじめとする生き物たちにとって重要な湿地を保全する国際条約「ラムサール条約」にも登録されました。

このほか、野鳥たちのほかにも氷河期時代の生き残りとされるコモチカナヘビや、世界最小の哺乳類の一つであるトウキョウトガリネズミ、春から秋にかけて湿原を彩る高山植物の花々など、珍しい動植物の宝庫です。

このように、優れた自然環境を有することから、サロベツは利尻島・礼文島と共に、世界自然遺産の候補地(詳細検討地)になっています。

しかし、戦後の開拓や農地開発などによってサロベツ原野の周辺環境が変化し、地下水位の低下や乾燥化、地盤沈下などが生じ、野生動植物や酪農業への影響が問題となっています。

サロベツでは自然環境の保全・再生と農業の発展という相反する要素の共生をめざし、様々な活動が行われています。

自 然 再 生

大正時代のサロベツ湿原は、現在の約2倍の面積(14,600ha)がありましたが、戦後の大規模農地開拓などで減少し、現在のような姿になりました。

やがて時代は移り変わり、農地開発重視の世の中から、近年は自然環境の価値や重要性が見直され、自然環境の保全や人と自然の共存に向けた考え方が広がって来ました。

そうした中で、水を必要とする湿原と、排水を進めなければならない農地(牧草地)が極めて近くに存在しているため、両者の隣接地においては湿原の乾燥化と、農地の劣化という難しい課題が出てきました。

そのため、平成17年度には上サロベツ自然再生協議会が発足し、行政と地域住民が一体となり、①湿原の保全、②農業の振興、③地域づくりを目標に掲げる自然再生の取り組みが始まりました。

一例として、湿原と農地の間に緩衝帯を設けることで、湿原側の水位を高く保ちつつ、農地側の排水性を高めるという目的で行われた自然再生事業では、モニタリングの結果、期待通りの効果が確認されています。

また、その他にも豊富町や環境省、林野庁、地元NPO法人などが湿原の乾燥化や外来種対策をはじめとする取り組みを地域内の各所で行っています。