風力発電による景観や生物への影響
サロベツ地域を含む道北地域は、強い風が比較的安定して吹くため風力発電に適した風況の地域であるとされています。しかし、地域内の人口規模が小さいことから電力需要が小さいため、これまで風力発電事業の実施数も限定的でした。ところが、2013年度の政府予算にて道北地域から道央地域への送電線網整備が予算化されたことをきっかけに、道北地域での風力発電事業計画が次々と打ち出されています。
一方、この地域はラムサール条約登録地であるサロベツ原野やクッチャロ湖をはじめ重要野鳥生息地(IBA)を多数抱え、地勢上、我が国とロシア極東地域や中国北部地域とを往来する渡り鳥にとって、我が国の玄関口に当たる地域となっています。
また、これら渡り鳥の他にも多種多様で貴重な動植物が生息する生物多様性の宝庫であり、国内外に類例のない優れた自然景観を持つことから、地域内の大部分が利尻礼文サロベツ国立公園や北オホーツク道立自然公園などの自然公園、国指定・道指定の鳥獣保護区などに指定されています。
風力発電施設は、野鳥の衝突事故(バードストライク)が多数報告されていることをはじめ、その建設・運転に伴う野生生物への影響は決して小さなものではありません。
また、建設中の作業車や運転時の増速機などの機械が発する騒音、ファンが作り出す風切音や影(シャドウフリッカー)は野生生物だけでなく地域の住民や家畜の健康への影響が懸念されています。
もちろん、巨大建築物であることから、この地域特有の大きな人工物のない自然的景観に与える影響は計り知れないものとなります。
よって、その建設については、建設そのものの是非から建設位置や機種・基数の選定まで、様々な専門家や地域住民はもとより広く国民や海外の専門家等の意見を取り入れ、慎重に計画を進める必要があります。
風力発電施設へのオジロワシのバードストライク映像(YouTube 環境省動画チャンネル)
※鳥が衝突死する映像が含まれていますので、視聴にはご注意ください。
風力発電施設に衝突死したオジロワシ(猛禽類医学研究所のサイト)
従来、風力発電施設については、建設計画時の環境影響評価(環境アセスメント)は義務付けられていませんでしたが、2012年10月より総出力1万kW以上の事業に対して環境影響評価が義務付けられるようになりました(7,500kW以上1万kW未満の事業については第2種事業として、案件ごとに判断)。これにより、風力発電事業計画に対して環境影響評価を実施し、その手続きの各段階で地域住民等の意見を聞くことが事業者に義務付けられることとなりました。ただし、この環境影響評価の結果や地域住民等の意見を活かすことが出来るかどうかは、事業者次第となっています。また、現在の我が国の環境影響評価の制度では、個々の事業ごとに環境影響評価を実施する形となっているため、地域全体における各事業の総体としての環境影響は一切考慮されないことが大きな問題点として制度の成立当初から指摘され続けています。
当法人は、風力発電をはじめとする再生可能エネルギーの普及そのものについて否定するものではありません。しかし、上記のような状況から現在のサロベツ周辺地域で過密なまでに立てられている風力発電事業計画については必要な対応が取られているとは言い難く、事業者に対して計画の大幅な変更または中止を訴えています。
本コーナーでは、これらサロベツ周辺地域における風力発電事業計画について、当法人や関係機関の対応その他の情報をご報告していきます。
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