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第1回 自然再生の取り組み ~湿地と農地をつなぐ「緩衝帯」~

 現在、自然再生の取り組みが行われいる「緩衝帯」は、サロベツ湿原と農地の間にある水環境の違いによる影響を緩和・解消するために設置されました。
 サロベツ湿原は6000年の時を経て形成された面積6700haを誇る日本で3番目に大きい湿原として知られています。この湿原は低層湿原、中間湿原、高層湿原の3つの異なる環境を有しており、その中でも高層湿原は日本でもトップクラスに広い面積を有しています。
 サロベツ湿原を含む利尻礼文サロベツ国立公園は、元々、豊富町、稚内市の一部や利尻、礼文の豊かな自然環境を守るために地域住民の国定公園化の活動が実り、1965年に利尻礼文国定公園として指定されたことがスタートの自然公園です。その後、高層湿原などの特別な環境が評価され、1974年に国立公園に指定されました。しかし、1974年時点ではまだ現在のすべての範囲が国立公園に含まれてはいませんでした。放水路計画や天塩川の治水整備などのため2944haもの面積が国立公園化されず、保留という形で残されてしまったのです。そして1974年から約30年の年月が流れ、2003年に遂に残された部分も国立公園に含まれることになりました。

サロベツ湿原センターとサロベツ湿原

 サロベツ湿原を含む豊富町は、北海道でも有数の酪農地帯です。飼育されている牛は豊富の人口の約3.5倍となる14000頭になります。サロベツ湿原の周りにも多くの牧草地が広がっています。

利尻富士と牧草地

 そんなサロベツは、「湿原」、「牧草地」という二つの性質を持っており、これらは時として相反する場合があります。それはそれぞれの求める水環境が異なるという点です。

湿原(手前側)と牧草地(奥側)が隣接する環境

 一般的に牧草地が求める環境は湿原環境とは異なり、ある程度水はけのよい土壌を必要とします。よって排水路を使い、土壌の水はけを改善する対策を行いました。しかしそうして排水を行うと、隣接している湿原の水位が減少してしまうという問題が発生してしまいました。湿原の水位が減少すると土壌が乾燥して、貴重な湿原環境が減少します。さらに湿原は乾燥化が進むと、ササが広がってしまいます。 

乾燥化によってササの浸食がすすむ湿原

 そこで打ち出された対策が「緩衝帯」でした。緩衝帯は農地と湿原が隣接している面において、「異なる水位を持つ2つの水路の間にある緩衝材の様な役割をし、それぞれの土地が必要とする水位を保つ」ことを目的としたものです。農地に面した水路は低い水位を保ち、湿原に面した水路は高い水位を保つことで土壌水量の大きな変化を緩和し、農地と湿原の共存を試みたのです。

緩衝帯の模式図

 緩衝帯は農家、地方公共団体、関係行政機関、専門家など多くの人々により実現し、緩衝帯を作るための土地は農家の方々の配慮で、農地の一部を無償で提供していただきました。この協力体制を作り上げる為、豊富町や北海道開発局と農家で説明会やシンポジウム、ワークショップを継続的に行いました。そして、自然と農業の共生を可能にする取組みが「国立公園の自然と共存するおいしくて安心な豊富牛乳,農産物」という地域ブランドの確立につながるということで、2006年に合意に至りました。また、その甲斐もあって効果も表れ始めており、落合にある落合沼では乾燥化によって水が干上がってしまっていましたが、緩衝帯設置後は水面が復活しました。また、モニタリング調査では絶滅危惧Ⅱ類であるエゾトミヨ、エゾホトケドジョウ、ゲンゴロウが確認されています。

落合沼

エゾトミヨ

エゾホトケドジョウ

 今後も環境省を中心として我々NPO法人サロベツ・エコ・ネットワークや各関係機関、地域の方々を始めとしたメンバーで緩衝帯の維持管理、周辺環境の調査などを行っていき、農業と自然が共生できるような環境づくりを目指していきたいと考えています。

緩衝帯で調査をする職員